すずまろ物語

②生命力

動物病院での診断

 到着した動物病院では30代半ばの男性獣医さんが診て下さいました。獣医さんはボク達に対し、最初に次のように話しました。

 「子猫がカラスに襲われている所を助けられたということで、大変お優しい行動をされたと思います。私も動物が好きで獣医になりましたので、感謝致します。ありがとうございます。

 これから、保護された子猫を診させて頂きますが、もし、残念な診断結果だったとしても、くれぐれも自分達を責めないようにして下さい。あなた達がいなければカラスに殺されてしまっていた命でした。でも、あなた達のおかげで今こうして少しでも安心できる場所にいます。だから、“もう少し早く見つけていれば助かったかもしれない。。。”というように決して自分達を責めることだけはやめて下さいね。」

 そうお話されて、子猫を診療台に乗せました。300gにも満たない小さな体でした。目は少し開いていましたが、猫風邪の影響で炎症し、黒目が右上の方で固まってしまっていました。そして、骨折してしまっているであろう顔部分、獣医さんが「ちょっと痛いと思うけど、ごめんね」と言いながら抱き上げて、指で口の中を開いた瞬間。

「にゃぁーーーーーー!!!!!!」

と、院内に響き渡る程の大きく悲痛な声で鳴き叫びました。驚きと本当に痛そうな声だったため、その恐怖でビクッとボクと妻の体が反応しました。あの鳴き叫び声は数ヶ月経った今でも耳に残っています。

 診断結果としては、痛み止め注射で一時的に骨折の痛みを和らげてあげて、後は経過を観察するしか無いというものでした。体が小さすぎて麻酔注射も打てないため、精密な検査等、他に手の施しようがなかったのです。生後10日程度と予測されるためミルクを与える必要がありますが、骨折の痛みで上手く飲んでくれないかもしれないので、生き延びられるかどうかは非常に厳しいと思うと言われました。

 獣医さんからの話の途中で横にいた妻はシクシクと泣き出していました。その様子を横目にボクも獣医さんの話を最後まで聞いた後、辛い気持ち押し殺して心が落ち着くように目を閉じるしかありませんでした。

生命力

 妻と子猫を先に車に乗せ、ボクは会計のために待合い室にいました。すると、診断して下さった獣医さんが声をかけて下さりました。

 「奥さんに自分を責めないようにと支えてあげてくださいね。大変な状態ですが、あの子猫が生きられるかどうかはあの子の“生命力”次第です。」

 ボクは救急で診て頂いたことと我々の心のケアもして頂いたことにお礼を伝え、妻と子猫が待つ車へ戻りました。車では妻が子猫の背中を擦りながら、静かに泣いていました。子猫はタオルの上で体を休めるように蹲っていました。

 家までの帰路、妻は「どうしてこんな目に合わなければいけないの。こんな小さな体で。。。生まれたばかりで、ホントはお母さんの側にいる頃なのに。怖かったでしょう。痛かったでしょう。」と声をかけながら泣き続けていました。ボクは、夫婦二人で気持ちが落ちていってはいけないと思い、妻に声をかけました。

「先生が言うてた。生きられるかどうかはその子の“生命力”次第やって。まだ生きてる。俺らでその子にやってあげられる事を全部しよう!それで元気になってくれたら万々歳やし、もし悲しい結果になったとしても、何もせずに弱って行くのを見てるより絶対良い。絶対大丈夫!ポジティブに考えよう!」

そうすると妻は涙を拭き、フゥーっと息を吐いた後に「わかった」と一言呟き、泣くのを止めました。そうして、スマートフォンで生後間もない子猫を育てるために必要な物を助手席で調べ始めました。

この時、ボクと妻の間に“絶対に助ける”という強い気持ちが芽生えたように思います。

復活へ向けての準備

帰り道にあったペットショップへ立ち寄りました。運転中、妻は助手席で準備が必要なものを調べてくれていたため、ボクに子猫を預けてショップへ入って行きました。購入したものは“子猫用粉ミルク”“哺乳瓶”“スポイド”“猫用のウェットティッシュ”でした。その他に必要そうなものは自宅にありました。

帰宅するとすぐに、先住猫が立ち入ることができない部屋にケージを組み立て、タオルを敷いて子猫が寛げるスペースを作りました。体が小さすぎて、感染症の有無等を調べる検査も受けられなかったため、先住猫とは離しておく必要がありました。5月といっても、日が沈むと肌寒かったので、部屋には電熱器を置き、子猫が横になるタオルの下にホッカイロを置いて夜も凍えないように環境を整えました。

子猫が生活する環境の整備が一段落した後、傷付いている子猫はおろか、生後まもない子猫ですら世話をしたことが無かったため、ミルクをあげる方法、ミルクの量及び回数、排泄をさせてあげる方法等を調べました。そして、二人で協力して子猫の命を救うためには毎日どのような対応が必要かを話し合いました。

時折、子猫の様子を見に行きましたが、痛み止めが効いているのかスヤスヤと眠っていました。子猫にとって大変な一日だったと思います。ようやく安心して眠れる空間を作ってあげられた気がして、その寝顔を見てボク達も少し安堵したのでした。

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